PLAT HOME

chamber mono opera (2020)

INSTRUMENTATION


chamber opera

2019-2020


Soprano


Flute

Clarinet

Violin

Viola

Cello

Percussion


DETAILS

Duration

60'


Last performance

28 July 2021

杉並公会堂


【演出】植村 真
【脚本】Stefan Aleksić Yannick Verweij
【美術】岡 ともみ
【ソプラノ】薬師寺 典子
【指揮】浦部 雪
【フルート】山本 英
【クラリネット】笹岡 航太
【ヴァイオリン】松岡 麻衣子
【ヴィオラ】甲斐 史子
【チェロ】山澤 慧
【打楽器】牧野美沙



First performance

6 September 2020

in Belgium  @MIRY Concertzaal,


Noriko Yakushiji (Soprano)

Yuki Urabe (conductor)

Cédric De Bruycker (Clarinet)

Jacqueline Berndt (Flute)

Hugo Ranilla de Castro (Violin)

Akiko Okawa (Viola)

Sinouhé Gilot (Cello)

Andrés Navarro Garcia (Percussion)


Comissioned by

Noriko Yakushiji


<あらすじ> とある地下鉄の駅で爆破テロが起きる。元警察官の女、テロリストになった男、事件を伝えるニュースキャスター、命を落とす移民の女、天国への列車を待つ少女…。事件に関わった人々とその記憶の断片が砕けたガラスに煌めくように描き出される。社会の矛盾と他者を理解することの難しさが露になる中で、行く先の見えない対話が続いていく。

<"PLAT HOME" とは> 本作は2020年にベルギーで初演されたモノオペラ《Amidst dust and fractured voices》の日本上演版ですが、この再演にあたり日本版では《Plat Home》とタイトルを改めています。この改題には、コロナ禍の中で重ねられた制作者たちの議論が反映されています。本作では、実在の爆破テロ事件をモデルにした架空のテロ事件と社会的な分断が主題となっていますが、それはテロが頻発し政治的な分断が進む欧州の状況を背景としたものでした。幸いなことに――少なくとも表面的には――、近年の日本ではそのような悲劇は起きていないように思えます。しかし、このコロナ禍では、日本でもすでに物理的な意味で人々は分断された生活を送ることを余儀なくされており、やはりその中では様々な社会的矛盾が露になったのではないでしょうか。だとすれば、劇中で事件が起こる「Platform」は、小さな区画に「区切られた」(Plat)、私たちの「家」(Home)にも重ねられるでしょう。この《Plat Home》というタイトルによって、テロ事件という特殊な主題は、今や我々にとって普遍的な問題とも寓意的に結びつくはずです。





作曲家ノート


この作品は、薬師寺典子さんの委嘱で書かれ、2020年にベルギーで初演されました。

「オペラが書けないと一人前の作曲家ではない」と学生時代に作曲科の先生に言われていたこともあり、オペラを作曲するのはまだまだ先の事、もしくは一生書くことはないかもしれないと思っていましたが、室内モノオペラという制限はあれども、このようにオペラを作曲する機会に恵まれ、更に日本でも初演される運びになったことを非常に幸運に思っています。一方偶然ではありますが、数年前から物語・映像・音楽を全て一人で制作する総合的な作品の準備を少しずつ進めていたため、同じように総合的な舞台作品であるオペラを作曲する準備は出来ていたようにも思います。そのためか、初めての試みではあったものの、特に戸惑うこともなく思いのほか短期間(20日程度)で作曲は終了し、長い作品を書いた!という感慨もないまま終止線を引くことができました。短期間で書き上げることができたこともあり、本作では冗長になることなく、一貫性と緊張感のある音楽を作曲が出来たのではないかと自負しております。


・楽曲編成について

前奏曲

不吉な予感のモティーフが、フーガのストレットのように、切迫してゆきます。爆発を表す全楽器のトレモロと、ソプラノの叫び声で音楽が中断されます。そのヒステリックな叫び声は、平常な呼吸のリズムを取り戻しつつ、シーン1へと繋がります。

シーン1

爆発後のシーン。一見正常に見えるのだが、どこかがおかしい。そのようなパラノイアに陥った元警察官の女性を、中心になる調(ハ短調)があるように聴こえつつも、直ぐに違う調へと飛んで行くことで表現しました。

間奏曲 I

弦楽器を主体としたコラール。被害者への追悼。短7度・長9度のカノン。シーン2で多用される和音へと繋がります。

シーン2

テロ実行前のテロリストの焦り、不満、緊迫感を、和音がどんどん下降することで表現しました。下降を続けるのですが、行きつく先はありません。中間部でチェロの独奏が入るのですが、それは、テロの実行を決意したテロリストの冷静さを現わしており、それ以後は怒りと決意に満ちた音楽になっています。

間奏曲 II

木管楽器を中心とした都会的な牧歌。TV局が舞台のシーン3の導入も兼ねています。テロが起きた事を、世の中のほとんどの人がまだ知らない状況を表しています。

シーン3

劇中で唯一テロの現場にいない登場人物である、ニュースキャスターは、常に冷静さを保っている様に見えますが、実はネガティブな感情を押し殺しています。それを表現するため、刻み続けられている心拍を表した音が、冷静さを失うにつれて徐々に乱れるように展開しています。

間奏曲 III

シーン4の登場人物である少女は、テロの爆発によって亡くなります。その宿命を、ヴィブラフォンを中心とした幻想的な音楽によって表現しています。

シーン4

電話の着信を模したモティーフから始まるこのシーンは、大きく2つに分けられます。前半は、母親と電話で会話するシーン。少女の歌う旋律を、楽器がディフォルメしつつ模倣することによって親子の会話を表現しました。改札が通れないことでいら立つ内的独白の後半部分は、レチタティーヴォによって表現しました。

シーン4と5の間に間奏曲はありませんが、冒頭の前奏曲が再び出現します。

シーン5

このシーンは、他の4つのシーンとは異なり、死後の世界が舞台となります。一人の歌手が犠牲者の少女とテロリストの二役を演じるため、テロリストはヘ短調で低音域、少女はト長調で高音域を歌うことで違いを表現しています。曲の終りは、初演時とは異なります。ベルギーでの初演時は、複雑なエンディングがあったのですが、今回の日本初演版は、それらを全てカットし新たにシンプルなエンディングを作曲しました。

作曲当時、2人目を妊娠中の妻が切迫早産であったため、全ての家事・育児を受け持っており、それらの合間に作曲をしておりました。その間に家族全員で風邪にかかったりと、これまでの私の人生の中で一番シビアな環境での作曲となりましたが、このオペラの作曲はそれらを忘れさせてくれるくらい楽しく、自分にとって非常に重要な作品となりました。最後になりますが、薬師寺さんを始め、このオペラに関わってくださった皆さま、そしてこのオペラの完成を一番喜び、今回の日本初演のプロデューサーとして公私に渡り支えてくれた妻にこの場を借りて感謝申し上げます。